iPS細胞とゲノム編集の組合せによる脂肪肝(NAFLD) モデルの開発について

概要


健康診断などによって指摘される「脂肪肝」。このうち、アルコールの過剰摂取が直接の原因ではない、つまりは肥満や生活習慣病が原因となる事の多い部類の脂肪肝を、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と称し、これらが進行した場合、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、更には肝硬変(Cirrhosis)、最終的には肝がんに進行すると言われております。肝硬変後の肝臓はNASH以前の状態に戻すことが出来ないとされており、出来るだけ早期にNAFLDもしくはNASHの状態から、より健常な状態に戻すことが望まれています。

 

NAFLD発症の原因およびスピードには、単純に生活習慣だけでは解明できないメカニズムも多く、個人差の多い疾患であることがわかってきており、疾患の原因となる特定の遺伝子が解明されつつあります。NAFLDに最も影響を与える遺伝子として、PNPLA3遺伝子 (Patatin-like phospholipase domain-containing protein 3) の変異 (rs738409 C> G p.I148M) がNAFLDに深く関係していることが近年の研究で明らかになっています。PNPLA3は、肝細胞中に存在するタンパク質であり、中性脂肪を分解する酵素であるが、I148Mの突然変異によって、この酵素活性が失われた場合、肝細胞において脂肪が蓄積されることがわかっています。

 

従来、脂肪肝に関する研究は、過食マウス等を用いた研究が主流でしたが、iPS細胞から誘導させた肝細胞 (hepatocyte) に存在するPNPLA3遺伝子をゲノム編集により変異させ、疾患モデルを作製する開発が、英DefiniGENとケンブリッジ大学等との共同研究により行われています。これらの細胞モデルを用い、遺伝子レベルにおいてNAFLD疾患の原因を追究すること、更にはアンメットメディカルニーズとして位置づけられているNAFLD, NASHを対象にした創薬開発に広く活用する研究が開始されています。

PNPLA3に加え、新たに他の遺伝子もNAFLDに関連することが明らかとされており、同様にゲノム編集の技術を採用した「iPS由来NAFLDモデル」の開発が進められています。

 

  • PNPLA3 (rs738409)
  • GCKR (rs1260326)
  • TM6SF2 (rs58542926)
  • MBOAT7 (rs641738)

 

 

疾患回路の同定


DefiniGENではiPS細胞の状態において、PNPLA3遺伝子における特定部位のゲノム編集(Knock-In, Knock-Out)を行い、シーケンシングデータを確認後、肝細胞 (hepatocyte) への分化誘導を行っています。

 

Fig.1 CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いPNPLA3遺伝子に変異を行ったiPS細胞のSangerシーケンシング解析結果 

(A) 野生型 (WT) におけるPNPLA3遺伝子 (B) フレームシフト突然変異の原因となる11bpの欠損をKnock-Out法により作製させたPNPLA3遺伝子 (C, D) I148M変異をKnock-In により導入したPNPLA3遺伝子

 

免疫蛍光染色ICC


ゲノム編集を行い疾患モデル化した細胞 (Def-HEP PNPLA3) においても、比較とした野生型 (Def-HEP WT) と同様、主要な肝細胞マーカーである、アルブミン (ALB)、NHF4a、A1AT、ASGPR等の遺伝子が発現していることが、qPCR解析ならびに免疫蛍光染色 (ICC) で確認されています。

 

Fig.2 Def-HEP PNPLA3細胞において肝細胞 (hepatocyte) に特異的なマーカー染色を行った傾向顕微鏡画像 (ICC) 

脂肪酸蓄積の比較


脂肪肝における典型的なフェノタイプとして、細胞内に過剰に脂肪酸が蓄積される現象を再現する必要があります。研究開発および製品における品質保証として、特定の脂肪酸 (0.25 mM のオレイン酸およびパルマチン酸) を細胞内に浸漬させ、それらの吸収を観察した結果、NAFLD疾患モデル細胞において顕著に脂肪酸の蓄積が認められました。

 

Fig.3 Def-HEP PNPLA3細胞に脂肪酸を反応させた際の染色画像

製品化・プロジェクト化に関する動向


ケンブリッジ大学におけるPNPLA3遺伝子改変NAFLDモデルの学術発表後、同大学からスピンアウトしたDefiniGENが、この疾患モデルの製品化を請け負っています。DefiniGENでは、先行してグローバル製薬企業とのカスタム・プロジェクトを通じ、Def-HEP PNPLA3 の製品化を実施し、疾患モデル細胞の品質保証・凍結保存技術の確立・解凍用培地の開発を完了し、在庫製品(製品名:Def-HEP PNPLA3)としてのグローバル展開を開始させております。詳細は、DefiniGENまでお問い合わせください。